遊家 須藤慎一さん

飲食の輪 酒の匠編 今回は「遊家」

「お客さま一人一人のためにお酒ストーリーを描きたい」
頭の中で日本酒フローチャートを日々拡張し続ける『須藤氏』にお話を伺いました。

■お酒に興味を持ち始めたきっかけは?
20代前半、ちょうどワインブームの頃に表参道のイタリアンのお店で働き始めたときですね。ワインってまず日本語じゃないし、アルコールの中でも一番よくわからない(笑)なのに、値段は高かったりして、僕としては謎な世界だったんですよ。だけど、そのお店のソムリエさんがお店に置いてあるいろんなワインを解説付で飲ませてくれて。そうやって飲み比べをしていくうちに、言っていることと実際飲んだ味わい、ワインそれぞれの個性があるんだということが分かり始めたんです。それに加えて、下の階には同じ系列のモルトバーがあったので、そこのバーテンさんも色々を教えてくれました。考えてみれば、お酒の知識が多いメンバーが周りに多かったんですよね。それまでは、自分の中で飲食店はフードがメインだったけれど、お酒も大切なんだなということに気がついた。そこからは一気にお酒に興味を持ち始めて、積極的に知りたいと思うようになりました。

■洋酒から日本酒への転機なんだったんですか?
前のお店でワインやウィスキーなど洋酒について勉強してきたので、お酒の知識を更に深めていきたいという思いもあり、次は自分の中でまだ未開拓だった日本酒や焼酎に対して、知りたい、覚えたいという意欲がどんどん湧いてきたんです。そこで、日本酒をメインに扱っている「遊家」に社員として入社しました。最初は一通りの仕事を覚えるのに必死でしたが、少し仕事に慣れてきた頃、日本酒の仕入れやメニュー作りをしたいと自ら志願しました。その頃は、とにかくいろんな本を読み漁りました。それと同時にお店にある日本酒を飲み比べしたり利き酒したりしました。こう書いてあるけど、どうなんだろうと思って飲んだり、飲んでみてこれちょっと違うなと思って、本を調べてみるとか。自分の中で裏づけをすぐに取れたのが楽しかったから、よりのめり込んでいったんだと思います。特に「天遊琳(てんゆうりん)」というお酒に出会った時「コレだ!」って思いましたね。でも暫くして、当時、遊家でお取引していた酒販店さんから仕入れられなくなってしまって。もうお店では出せないのかな…と諦めかけたある日、たまたま近所の酒屋さんに入荷してて。嬉しかったですね。それがきっかけでその酒屋さんと仲良くなり、蔵元さんを紹介してもらったりと深いお付き合いをするようになり、日本酒についてもいろいろ教えていただくようになりました。結局、ワインの時と同じなんですよね。ソムリエさんが言ってることと味わいが理解出来て楽しくなったように、本や蔵元さんや酒屋さんに教えてもらったことが理解出来ると楽しいから、また知りたくなる(笑)その繰り返しで今日まで来たという感じです。

■お店に仕入れる日本酒のチョイスへのこだわりは?
自分の好みだけだとある一定の枠だけになってしまうので、蔵元さん達が集まる試飲会に行って、未開拓の部分を入れてみたりします。同じ名前のお酒でも、季節によって生や火入れ、精米の具合でも味は変わるし本当に沢山ある。僕はやっぱりお客さんが美味しいと思うお酒を置きたい。けれど、お客さんが美味しいと思うお酒は千差万別なわけで。利酒師やソムリエとかのいわゆるお酒のスペシャリストって、味で銘柄が分かるのが凄いとか、そういうイメージをされる方が多いですが、それはただのゲーム。大切なのは、それぞれのお酒の味を理解した上で「お客さんの好みに合うお酒を選ぶ」っていうこと。だから、お客さんの好みをどうにかして知るために「味は濃いのがいいですか?」とか「すっきりしたのがいいですか?」とか、お話を伺いながら「じゃあコレかなアレかな」とパターンを用意する。色々な選択と提案が出来るように、頭の中で一人一人のフローチャートを作ってみるんです。だから「コレ美味しいよ」って言って戴けたときが最高に嬉しいですね!

■今回出店された二子玉川店はどのようなお店にしたいですか?
「遊家本店」と「すずらん通り店」は、溝ノ口で地元に根付いてきたお店なのですが、こういうお店のパッケージが、果たして違う土地でも同じように受け入れられるのか興味がありました。沿線の中でも二子玉川は、毎日高いお金を出してディナーに行くようなハイソ的なイメージがありました。でも、どの街にも必ず焼き鳥屋さんや居酒屋に来るお客さんはいると思うんです。だから、敢えてそのハイソなイメージの二子玉川に。まあ、まだオープンして間もないので、その答えはまだ見えないのでこれからですけど(笑)

■今後の目標は?
日本酒が好きでお店にいらっしゃる方も、そうではない方もいると思うけれど、そこは敢えて堅苦しくなくいきたい。主導権が完全にお店にあって楽しくないようなお店にはしたくないから、聞きやすい雰囲気を作る努力はすべきだし、していきたいと思っています。とにかく興味を持って飲んでいくと楽しいと思うんです。人のパートナーともなかなか巡り会えないものですが、お酒もすごい種類があるので、たったひとつに巡り合うのは難しいと思うんですが、すべてはきっかけ。かつて、僕が教えて戴いたことで楽しさを知り「天遊琳」に出会った時のような感動を、お店に来ていただいたお客さんにも感じて欲しい。お客さんにとっての「コレだ!」っていう日本酒を見つけるお手伝いをしたいですね。日本の歴史や文化と共に受け継がれてきた国酒である日本酒をもっと愛でていきたいし、作り手さんの情熱と飲み手の想い…それを結びつけるのが、料理店である遊家の仕事であると思うし、僕の使命だと思うんです。

【プロフィール】須藤慎一氏

1998年、神奈川県溝の口にオープンした「遊家」に2000年に社員として入社。本店で日本酒の仕入れ担当を経て、店長として赴任。その後、2号店であるすずらん通り店の店長を経て、現在は専務取締役として2011年8月にオープンした二子玉川店を含めた3店舗を切り盛りしている。

■関連リンク:『鮮魚・炭火串焼・地酒 遊家(ゆうや)』

(文と写真:黒田みいこ)