螢月 牛山剛氏

池袋「螢月」 牛山剛氏

日本酒の灯火を次の世代へ受け継いていく…「螢月」の『牛山 剛氏』にお話を伺いました。

池袋「螢月」 外観

JR山手線池袋駅から7分。空間デザイナーの杉本高志氏がデザインした店舗は、落ち着いた雰囲気。

■飲食業に入られたきっかけは?
地元にオープンしたやきとり屋さんでアルバイトを始めたのがきっかけです。日本酒を50銘柄くらい置いてあるお店で、店長さんがすごく日本酒に詳しい方だったので、いろいろと日本酒について聞かされるうちに、日本酒に興味を持つようになりました。その店長さんが「きき酒師になったら?」と勧めてくれたんです。初めは「そういう仕事があるならやってみたいな」と漠然と思っている程度でした。ただその頃から飲食に関わる仕事をしたいと思っていましたので、その後はそのお店でアルバイトを継続しながら、調理師学校に通って料理の勉強をしました。同級生がシェフとしてホテルや料理店などに就職する中、僕はシェフよりも日本酒を扱う「日本酒人」になりたいと思っていましたから、就職先をどうしようかと考えていたところ、たまたま「日本酒アドバイザーになりませんか?」という求人広告を見つけて「ここなら日本酒が勉強できる」と思い、20歳の時に「螢月」に入りました。初めはアルバイトで2~3年は、ホールとして働きながら日本酒について勉強しました。

池袋「螢月」 オーナーの牛山氏

オーナーの牛山氏。優しく丁寧に日本酒のことを教えてくれます。

■最年少できき酒師に…
螢月に入って4ヶ月ほど経った頃、当時の店長だった原口さんにきき酒師の資格を取るよう勧められて取得しました。きき酒師という仕事があると知った時から、いつか取りたいとは思っていましたが、自分としてはまだ早いと思っていたんですけどね。結果的には日本最年少(20歳)できき酒師になりました。 その後、しばらくなくなっていた酒匠(さかしょう)の資格が復活したので、それも取得しました。

■その後、一度お店をやめられたそうですが、その理由は?
僕を紹介してくれた「稲水器 あまてらす」の古賀くんが「甲州屋酒店」の店主である兒玉光久さんという方の話をしていたと思うんですが、原口さんはその「甲州屋酒店」で兒玉さんのお弟子さんとして働いていたんです。その繋がりでから「螢月」の店長になり、僕はその原口さんから日本酒のことを教えてもらい、たくさんのことを学ばせてもらいました。2人で飲んでいる時によく「甲州屋酒店」で働いているときの話をしてくれたのですが、「あそこの蔵元へ行ったけど、どうだった、こうだった」「この蔵元では、こんな人が居てね…」と、飲食店で働いているだけでは知りえないことを聞いているうちに、飲食店よりももっと蔵元に近いところ、もっと日本酒に近いところである「酒屋」で働いてみたいという気持ちが強くなり、入って5年目の頃にお店をやめて、三鷹にある「宮田酒店」で働かせてもらいました。腰を痛めてしまったために1年ほどでやめてしまったのですが、
そのときの経験は今の自分にとって、すごく大切でよい経験ができた1年だったと思います。

■飲食店も酒店も日本酒を販売するという意味では同じですが、具体的にはどのような違いを感じましたか?
酒店には、普段から蔵元の方が営業に来られたり、造り上げら「今年のお酒はこういう感じになりましたよ」と持っていらっしゃいますし、ホテルの大きなフロアを貸りて、30蔵ほどの蔵元さんを呼んでの試飲会イベントを開催したりと、蔵元さんとのお付き合いが飲食店よりも強いんですよね。今、お店でメインになっている日本酒も、そのイベントでお付き合いさせていただくようになった蔵元さんのお酒が多かったりします。

日本酒をお客さんに勧める場合、飲食店も酒店も「こうゆう味ですよ」とか「こんな料理に合いますよ」とか勧めるという行為自体は同じなのですが、酒屋では基本的に一升瓶を買いますよね。「一升」を売るのと、「一杯」を売るのとでは全然違うんですよね。例えば、飲食店で違う種類のお酒をグラスで5杯呑む方は居たとしても、酒屋で違う種類のお酒を5本買う人は居ないですよね。要は、一週間の酒を買うわけです。今週はこの酒を呑もうという思いで買うことになるので、失敗したくない思いが強くなって選ぶ方もより慎重に、よりシビアになるんですよね。飲食店では、もちろんお金を出して呑むのですから失敗はしたくないと思いますが、1杯なので呑みきってしまえば次のお酒を楽しめるわけです。「1本(一升)を売るってすごいことなんだ」と、日本酒に対する思いの比重が少し変わるというか…売り手と買い手、両方にきちんと向き合って、なおかつ違う角度で日本酒に向き合えた貴重な時間だったと思います。

池袋「螢月」 店内

店内は、32坪とは思えないほど、ゆとりある作り。カウンターでも料理と日本酒をゆっくり楽しむことが出来る。

■螢月への復帰後、オーナーになられた経緯は?
腰を悪くしてしばらく僕は何もせずにボケーっと過ごしていたのですが、「螢月」はその頃、経営譲渡という形でオーナーが変わり、それをきっかけに原口店長がやめて、僕の同期が店長代理として店を切り盛りしていたんです。ある時、その同期に「日本酒のお店として受け継いできた「螢月」を、これからもちゃんと日本酒のお店として存在させたいから戻ってきてほしい」と言われ、僕もそろそろ仕事をしなくちゃと思っていましたので(笑)、戻ることにしました。その1年後の26歳の時に店長になりました。

オーナーになったのはさらにその1年後の27歳の時なんですが、その当時のオーナーは飲食業にはまったく関係ない業態で、景気が悪くなったことをきっかけに「螢月」を誰かに譲渡するっていう話になり「やってみる?」と話を持ちかけられました。またオーナーが変わるのは面倒だなと思って「じゃあやります!」と、エクアスという会社を立ち上げオーナーになりました。

東北泉 吟醸酒「色好い返事」と焼きタラバ蟹

東北泉 吟醸酒「色好い返事」と焼きタラバ蟹

酒(SAKE)を逆から読んでEKAS(エクアス)、常連の方に考えていただきました。店長としても金銭管理してましたので、店長もオーナーもあまり変わりがないと感じます。楽になったなと思うのは、何かを決定する時に上に通す必要がなくなって、すべて自分で決定できるということですね。あとは、給料日が待ち遠しいものだったのが、キライになったくらいでしょうか(笑)

■お店で扱っている日本酒について
メインで扱っているのは岩手の「あづまみね」、静岡の「開運」、福井の「白岳山」あたりでしょうか。中でも「あづまみね」は、僕がまだ螢月に入ったばかりの頃に蔵元を呼んでのイベントが開催されたのをきっかけに、実際に蔵に10日間くらい行って、蒸した米を走って運んだり、初絞りの経験をさせていただいたり、酒造りのお手伝いをさせていただいた蔵なので思い入れがあります。

今後の「螢月」について
「甲州屋」の遺伝子として、「甲州屋酒店」の兒玉光久さんが原口さんに受け継いだ想いを、そして原口さんから僕が受け継いだ日本酒への想いを大切にしていきたいと思っています。「螢月」という店名には、これからの和食文化や日本の文化は、螢の光のように淡いものだけれども、月の光のように煌々と輝くものになっていきたいという初代オーナーの願いが込められていると聞いています。今は純和食や日本酒の文化が見直されてきていますが、オープン当時は洋食文化やワインがもてはやされている時代でしたので、和食や日本酒に対する思いが強くあったのだと思います。

日本酒ってどうやったら広まるのかなと常に考えているのですが、もっと大衆的というか…池袋にしては「螢月」は客単価が高いほうなので、このお店ではなく別の形での展開になるのかもしれませんが、「螢月」のコンセプトを受け継ぎつつ、自分と同世代に安くて美味しい日本酒を紹介できるようなことをやっていきたいと思っています。お酒の会を増やしたり、蔵元に見学に行ったり、お酒好きのお客さんと遊ぶというか、よりお客さんに日本酒を身近に感じていただけるように一緒に楽しむ機会を作っていきたいですし、その想いをまた僕の下の世代にも伝えていきたいですね。


「オーナーって言っても経営譲渡なので…」と謙遜して笑う牛山氏だが、淡々と語る言葉からも、日本酒文化をきちんと伝えていきたいという想いがひしひしと伝わってくる。日本酒に真摯に向き合う姿、日本酒の知識の豊富さ、その信頼感があったからこそ、今こうして「螢月」の看板を受け継ぎ灯しているのだろう。
(文と写真:黒田みいこ)

池袋「螢月」 牛山剛氏

【プロフィール】牛山 剛氏

1980年、東京生まれ。20歳の時に「螢月」にアルバイトとして従事。最年少(20歳)できき酒師の資格を取得。26歳で店長になり、翌年若干27歳にして株式会社エクアスを立ち上げ「螢月」のオーナーとなる。受け継がれてきた想いを守りつつ、同世代の人たちに日本酒本来の美味しさ、素晴らしさを伝えるべく努力を重ねる日々。年に2回ほど(主に春と秋)蔵元見学ツアーや、2ヶ月に1度くらい蔵元を向かえて、和食と日本酒のマリアージュを楽しめるイベントも開催している。

【店舗情報】 螢月 (ほたるづき)

住所:
東京都豊島区東池袋1-31-6 三昌ビル1F
アクセス:
JR池袋駅東口から 徒歩7分
電話:
03-3981-0280
営業時間:
[月~木] 17:00~翌0:00 (L.O.23:30) [金・土・祝前] 17:00~02:00 (L.O.01:30)
定休日:
日・祝
席数/坪数:
48席/ 32坪
客単価:
8,000~10,000円
売上目標:
月商500万円
運営会社:
株式会社エクアス
関連URL:
池袋「螢月」 http://hotaruzuki.com/